食べることって

2017年07月25日

強制給餌:強制的にご飯を食べさせること。。。です。

生きていく上で、食べることは当たり前ですが不可欠です。具合が悪くなると人間と同様に動物さん達も食欲が無くなります。しかし、回復していったり体力を確保するには栄養が必要。すなわち食べることがとても大切です。でも、食べてくれない時にはどうするのか?そんな話をしてみようと思います。

栄養を補給するには2つのルートがあります。まずは経口的なルート。要は口から始まる消化管を介しての栄養補給です。もう一つは血管(静脈)を介したルートです。血管には末梢からのルートと中心静脈からのルートがあります。末梢からのルートは所謂一般的な静脈点滴の方法と変わりません。中心静脈は後大静脈にカテーテルを留置してそこから栄養を入れていきます。簡便なのは末梢血管からの栄養補給ですが、消化管を介さない栄養補給を続けると絨毛の萎縮が起こり、口からの食事を受け付けなくなるなどの弊害が長期的になると発生します。そのため、長期的に栄養補給を行う場合は、ある程度は消化管を介してのルートを使用しなくてはいけません。

でも無理矢理食べさせようとしても食べないし、吐き気が強い子だったら尚更入れても吐いてしまう。病気に依っては胃をお休みさせないといけない。。。様々なケースで口から食事を入れることが困難なこともあります。

そんな時に使うのがPEGチューブや鼻カテーテル、経食道カテーテルなどのチューブを直接消化管に設置・留置していく方法です。特に鼻カテーテルを用いる方法が侵襲性が少なく、無麻酔でできるため猫さんを中心に採用するしています。ネックとしては細いカーテルしか入らないため、液体に近いものでないと上手く投与できないということです。流動食でも固くて入りません。。。

そんなカテーテルが役に立ったケース。

肝リピドーシスの猫さん。

近医で持続的な食欲不振&肝腫大が指摘され、ステロイドを使用したり、入院治療も2日ほど行ったが改善なく、どんどん弱っているとのことで転院してきました。各種検査から肝リピドーシスと診断。黄疸や白血球の低値などもあり、結構よろしくない感じ。肝リピドーシスは、ざっくりと言うと肝臓に脂肪が蓄積している状態で、結果として黄疸や肝機能の低下、食欲不振等を引き起こします。肥満猫さんに発生が多く、様々な要因で脂質代謝障害が起こり、肝リピドーシスになるとされています。今回は経過が長く、原因疾患が多数考えられる状況でした。前医の時点で肝リピドーシスだったのか、それとも治療の経過の中で肝リピドーシスになったのか。。。検査結果などから推測するのですが、前医は結果をくれなかったとのことで、病態のヒントは闇の中。。。取り敢えずは肝リピの治療を先行することにしました。

肝リピの治療は食欲不振を起こす原疾患があればそちらの治療。そして並行してひたすらの栄養補給になります。栄養補給といっても既に具合が悪いことも多く、人間と違い、食べなさいと言っても食べてくれる訳ではありません。その場合、強制的に食べさせていく事が必要になります。しかし、猫さんの場合、強制的に食べさせ続けると、その食べ物に対して忌避を示すようになり結果として食欲が更に低下してしまうという負のスパイラルがあります。。。

そこで使用するのが先程の鼻カテーテル。鼻に局所麻酔をしてスルスル〜っと鼻から通して胃袋まで通します。鼻から出た部分を眉間あたりに固定して、そこから栄養を入れていきます。これがあれば嫌がらずに必要カロリーを届けることができます。本来なら麻酔を掛けて食道チューブを入れた方がラクなのですが、肝酵素値が高く、麻酔リスクが怖かったため、マイルドな本法を採用しました。

液体の栄養剤を必要カロリーに合わせて給与し、1週間程の入院治療で肝リピドーシスからある程度の離脱ができたため、通院に切り替えて経過観察中です。今後は原疾患の有無の探索を様子を見ながら行っていきます。

本疾患の治療の肝はいかにカロリーを十分に補給するかであり、カテーテルを用いることでかなり効率的におこなうことができました。消化管をしっかりと用いていることからカテーテル抜去後も自力での採食がスムーズに移行でき、とても効果的でした。

カテーテル経由での食事と聞くと良い印象が持ちにくいかもしれませんが、動物医療においてはとても有用な方法です。入院治療は動物さんにとってストレスの多い選択ではあることは否めません。その中でもしっかりと効果を上げたり、出来る限りのストレス軽減を努め、治療にあたっています。