膿皮症に抗生剤は是なのか?耐性菌って?

2015年04月19日

狂犬病の予防接種・フィラリアの検査はお済みですか?当院では目黒区・世田谷区問わず狂犬病の予防注射ならびに代行手続きを行うことが出来ます。また、フィラリア検査時のお得な健診セットもご用意しています。是非ご利用下さい。

さて、難治性の皮膚トラブルということで診させて頂いたケースで最近似たケースが連続しています。それは、「治りの悪い膿皮症」です。膿皮症は犬の皮膚トラブルの中で最も多く見かける疾患の一つです。我々獣医師も新人の際に最初に担当することも多い疾患です。原因は皮膚の表面や毛包において常在菌(特にブドウ球菌:S.pseudintermedius 人のとは別物)が増殖し、その菌体への反応や産生する毒素のよって炎症が起こることで起こるとされています。増殖する要因には様々ありますが、誘発リスクとして基礎疾患の有無やバリア機能の低下などが挙げられます。治療は抗菌薬を用いたり、洗浄し菌の数をコントロールすることや場合によって痒みのコントロールを行う必要があります。シンプルな治療ですね。

しかし、その一般的で治すこともイージーなはずの膿皮症の治りが悪い。抗菌薬が出ているのに効かない。痒み止めを飲むと痒いのは少し収まるけどフケや湿疹が収まらないなどなど。。。こういったケースのご相談を最近多く受けています。なぜなのでしょう?当然、基礎疾患の有無などで抵抗力が低下しているケースなどもありますが、「他の病気はなさそうな子」、「比較的若く、健康そうな子」でもこのような事態が起こっています。

その要因の一つに多剤耐性菌の出現が挙げられます。耐性菌は「本来なら効くはずの抗菌薬に対して効かない様に変異した菌」ともいうことが出来ます。菌も抗菌薬に曝されているとその内の幾らかはその抗生剤に対する耐性を獲得します。その際に大体は1種類のみ耐性を獲得することは無く、似た種類の抗菌薬にも耐性を獲得する傾向があります。そのたびに新しい抗菌薬が作られ、それに対してまた耐性を獲得し。。。というイタチごっこを繰り返してる歴史があります。人間の病院ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が問題になっていますが、これも多剤耐性菌です。獣医療でも耐性菌の問題が多くなっています。使わなくてはいけないのに効く抗菌薬が無いケースの増加。。。ということです。

当院ではこの様なケースに対しての診断、治療方針の決定のために培養検査ならびに感受性試験を実施しています。これは本当に菌が病因なのか?病因ならどの薬なら効いてくれるのか?などを確認する検査です。右の写真がその検査結果です。

これは膿皮症が治らないとのことで受診いただいた子の病変部から採材し、検査したものです。結論から言うと病変部からはブドウ球菌が検出され、さらに多くのお薬に対し耐性を獲得していることが分かります。すなわち多剤耐性菌MRSPになります。MRSAの犬版と言えます。一般的な抗菌薬は効果を示さず、実際にも当院で最初に処方した薬にも耐性を獲得しておりました。このケースではオーナー様のご希望もあり、当院でトリミング&薬浴をし、外用や薬浴、消毒がし易い状況を作ることが出来たので、内服が万が一効かなくても対応できる様に消毒を用いた外用治療を展開していました。そのせいか、ある程度のコントロールはできていました。しかし、新たな病変も出ていたのは事実であり、内服があまり効いてないことが示唆されました。局所療法は使用したところにしか効果を示さないので仕方ありません。この結果を見て、感受性のある抗菌薬に切り替えて、なるべく早く内服を用いた治療から外用療法に切り替えて行きたいところです。ダラダラ使っているとこの抗菌薬にも耐性を獲得することは容易に想像できます。

なぜこのようなことが起こるのか?これは我々獣医師自身もきちんと考えなくてはいけない問題と言えます。抗菌薬の内服のメリットは飲むだけで全身に効くことがメリットです。しかし一方では耐性菌の問題や、不要な投薬になっている可能性はデメリットになります。また、薬によるリスクは外用に比べると考慮しなくてはいけません。また、外用療法は飼い主様にやり方を知ってもらったり手間をかけて頂く必要があるのでこれもネックになります。そうするとケースによっては取り敢えず抗菌薬を出そうとなる場合もあります。でも、もう少しココの仕分けを我々はしっかりと考えるべきかな?と思います。

当院では必要なケースには当然しっかりと内服でも抗菌薬を使用しますが、この是非については毎ケース十二分に検討を行っています。また、上述の培養・感受性試験においてもきちんと「犬の膿皮症の主原因であるブドウ球菌」を検査できる専門のラボで行っています(ラボによっては人のブドウ球菌を対象としているため、検査結果がきちんと反映されないことが多いため無駄になることもあり注意が必要です)さらにこのケースの様な多剤耐性菌へのアプローチを引き出しとして多く持ちあわせていますので、飼い主様とご相談の上治療方針を決めていき、安易な投薬にならないよう自分自身気をつけています。

簡単な病気だからこそ安易な治療に行きがちですが、だからこそ他に気をつけることは無いかを見ていく余裕も必要なのかもしれません。改めて少しでも難治・再発性の皮膚病の子の力になれるよう、スタンダードな治療や知識のアップデートをし、安心して治療を受けて頂けるよう務めて行こうと再認識させられた1週間でした。