紹介症例を見てて思ったこと

2017年09月08日

皮膚病が春先からずっと治らないとの事でご紹介頂いた猫さん。

ステロイドなど用いながら積極的に治療しているが良くならずにどんどん悪化しているとのこと。

見てみると耳や爪が滲出液やフケ、痂皮などでボロボロ。炎症もきつく見た目は中々酷い感じでした。急性腎不全の既往歴があり、定期的に血液検査等で経過観察中の子だそうです。耳は痛みがあるとのこと。飼い主様も難治で苦慮している模様。初見でしたが、頭では「多分あれかな?」と見当はつきました。

皮膚病において重要な事はまずは皮疹を見極めること。例えばブツブツと言っても色々なブツブツがあります。赤いといっても色々な赤いがあります。また、それらがいつ、どこから、どのような感じでということを問診や身体チェックで確認します。そして、犬か猫か、さらに犬種・猫種は?、年齢は?初発は?などその子のヒストリーや情報もきちんと確認します。これらを元にして、考えられる鑑別診断リストを頭の中で作成します。ここがトレーニングや経験が必要な点です。当然、このリストを作成するにはマイナーな病気も含めて網羅しないといけませんから知識も必要です。

リストが作れれば、あとはその鑑別を絞り込むために何の検査を行うのか?どのように行うのか?を検討し、必要性をきちんと説明した上で実施していきます。

今回も頭の中ではこの様な事を考えながら診断に繋がりそうな、また除外診断ができるために必要な検査を選別して実施。。。

今回は診断として「落葉状天疱瘡」。念のため、類似症状の疾患の除外は行うもののこちらの結果は後日。なので所謂暫定診断になりますね。ここで大事なのはこの診断で満足しないこと。なぜその病気を発症したのか?ということも大事です。病気に依ってはある事象がトリガーとなって発症するケースもあります。落葉状天疱瘡は表皮細胞間の接着分子であるデスモソーム内のデスモコリン1に対する抗体ができることで発症する自己免疫疾患です。免疫異常が起こる素因は探る必要があります。ワクチン歴、投薬歴、腫瘍の有無など。。。こちらは紹介元病院様にお願い。落葉状天疱瘡は国家試験などにも頻出な病気ですが、実際に症例を見た先生は案外多くありません。ホームドクタIMG_1702ーでの診断が付くことも増えましたが、どう思う?とセカンドオピニオンを求められることは依然として多いです。写真は落葉状天疱瘡において特徴的な棘融解細胞と未変性の好中球(いわゆる無菌性)。キレイに確認できたので乗せてみました。

今回は適切な量のステロイドを用いて免疫抑制をかけてコントロールを試みます。副作用が強調される場合や、反応に乏しい場合はその他のお薬を検討していきます。治療の基本は紹介元様にお願いし、こちらは治療反応に乏しい場合の後方支援となります。取り敢えずは原因が分かり、飼い主様も安堵して帰っていきました。

皮膚疾患はこのように見る人が見ればきちんと答えが出たり、道筋が見えるものです。他科に比べるとそのウェイトが大きいなと感じています。今回はキレイに解決しましたが、まだまだ自分自身、日本のトップ、世界のトップの先生とのお話、症例相談等お伺いすると圧倒的な知識・経験の差を感じます。来年からは認定医という学会からの肩書はつきますが、今回の様に結果を出し続けないといけませんし、自分の研鑽が必要だと痛感しています。当然、皮膚のみならず内科・外科・眼科なども同様です。

近年の動物医療の進歩は目覚ましいものがあります。と同時に我々がゼネラリストとして求められるものはどんどん増えています。それに応えるには各診療科目に対応出来るように多種多様な機材・深い知識が必要になります。なんでも機械に頼るわけではありませんが、理論的にきちんとやっていくには昔よりも明らかに積極的な設備投資や知識のブラッシュアップが必要です。一方で、設備投資をする事はビジネス的にはそれを「ペイできるかどうか」も必要です。日本の動物病院がこれから抱えるジレンマです。飼育頭数が減っているが病院は増える。求められるものも向上していく。設備投資が出来る病院や新しい価値観を作れる病院が選択され、旧態の病院は淘汰されていく。。。正しい経済の流れだと思いますが、とてもリスキーで世知辛いなと思う今日この頃です。。。