短頭種の麻酔

2016年01月07日

お正月気分も一段落して、町中も通常モードになってきましたね。

昨年は皆様のお力に少しはなれましたでしょうか?本年は更に皆様のチカラになれるよう、スタッフ一同頑張って参ります!!

さて、話は変わりまして。。。

当院には沢山の短頭種の子達が来院します。シーズーさん、フレブルさん、パグさん、ペキさんを始めとした犬種達です。とても愛嬌のある顔で、一度飼うと止められない魅力がある子達です!とても可愛い子達ですが、短頭種がゆえに暑さに弱い事や、麻酔などの処置に短頭種以外の犬種と比べるとリスクを伴うことが多いのが弱点です。すなわち「短頭種気道症候群」が問題となってきます。

短頭種気道症候群は、

  • 外鼻孔の狭窄
  • 軟口蓋過長
  • 喉頭小嚢外転
  • 喉頭虚脱
  • 気管低形成

といった複数の解剖学的異常によって引き起こされる、上部気道閉塞の臨床徴候を引き起こす状態です。すなわち、短頭種特有の構造の結果、いびきや努力性呼吸、ひどいと失神やチアノーゼといった状態に至り、時に致命となりうることもあります。特にこれらは暑熱時や麻酔の導入・覚醒時に問題となることが多いです。実際に「短頭種に麻酔は危ない」とご存知の方も多いと思いますが、これが理由の一つです。

上部気道(鼻〜気管まで)が上記の理由で狭い・細い頑張って呼吸をしないと換気できない(細いストローで息をするのと太いのでは圧倒的に太いほうが楽ですよね)→上部気道に負担が掛かる炎症や浮腫が起こる更に気道が狭くなるもっと呼吸がしにくくなる。。。という悪いサイクルが起こってしまうのです。暑熱時であれば、パンティングをするとその時点で努力性呼吸となるため、こちらからも悪いサイクルは回り出します。

しかし、この犬種でも麻酔をかけて手術をしないとならない時や、暑い夏が訪れることは事実です。そこで、当院ではリスクを少しでも減らすために、外鼻孔狭窄と軟口蓋過長についての処置をご提案することがあります。鼻孔を拡げたり、伸びた軟口蓋を切除することで呼吸をしやすくする手術を他手術と同時に実施するということです。

メリットとしては、格段に暑熱時や麻酔時のリスクが格段に下がるということです。生きてく上で呼吸確保、気道確保は最重要事項の一つです。

デメリットとしては、外観が変わる事があることや、軟口蓋の過剰切除で誤嚥を引き起こしやすくなることがあることなどが挙げられます。

今日は、そんな処置を避妊手術と同時に行ったケースを紹介します。

Fブルの女の子、1歳弱。避妊手術予定でしたが、睡眠時のいびき、起床時でのガーガーする呼吸、鼻孔の狭窄などを認めたため、鼻孔拡張術と軟口蓋切除術を同時に実施しました。常法通りに避妊手術を実施し、体位を変えて手術していきます。。。

 

まずは軟口蓋から。写真は開口した状態で、写真やや下に見えるのは気管内に挿管したチューブです。そのチューブに上からねっとりとまとわりついているのが軟口蓋です。本来ならチューブの周りには披裂軟骨などが見えるのですが、伸びた軟口蓋のせいで何も見えません。これが気管の入り口に暖簾のようにぶら下がるために呼吸の度に振動してガーガー言うのです。左の写真では軟口蓋をつまんで、どの程度切除するかを検討しています。

 

 

これが、切除中の写真。軟口蓋を指示糸で引っ張りながら徐々に切除していきます。すると、気管チューブの向こうに黒い空間が見えてきて、チューブ周囲の軟口蓋組織が少なくなって披裂軟骨も確認できることが分かります。指示糸を離すともっとチューブ周りはすっきりします。大体所要時間は20分程度。

 

 

 

 

 

 

 

 

次に鼻孔拡張術。こちらは片鼻だけ行った状態の写真です。右の鼻孔が左に比べかなり拡張しているのが分かります。これを左にも実施をしていきます。左側は本当に筋くらいしか穴が見えません。。。こちらは所要時間10分程度。

 

 

これらを実施することで、麻酔の覚醒がかなり安全かつスムーズになります。そしてガーガー音やいびきも少なくなり、これで暑熱ストレスなどにも耐えやすくなります。そして、なによりも上述の悪いサイクルが回りにくくなるために、QOLもかなり上昇します。さらに重症の場合は外転した喉頭小嚢の切除も行いますが、大体はこの2つだけでもかなりラクになります。病院によっては短頭種の手術の場合には必ずセットでやることもあるようです。

短頭種と生活している飼い主様達には是非知っておいていただきたい知識と手術です。当院では避妊・去勢手術時などと同時にでもお受け出来ます。少しでも皆様の不安やリスクが減る一助になれば幸いです。