耳掃除っているんですか?

2019年01月22日

お耳のメンテナンス等について聞かれることがあるのでざっくりと。。。

Q:耳掃除っているんですか?

健全な耳のコンディションなら不要です。理由としては耳道内の耳垢は上皮細胞のスライディング作用により勝手に外に排出されるようになっているからです。しかし、耳の穴の中ではなく、穴の外すなわち耳介内側はその様な機構は無いため汚れていれば内側を拭いてもらうくらいはしても良いと思います。でも優しく拭いてください。強く拭くと耳血腫を起こすことがあります。

Q:何を使ってやるの?綿棒を病院やサロンでは使っているようだけど?

綿棒はNGです。耳道内に汚れを押しやってしまい折角出てこようとしている耳垢を閉じ込めてしまいます。それは外耳炎を引き起こす元にもなりますし、耳道内を擦ることで耳道表面の皮膚は損傷しこれも炎症を引き起こします。耳掃除、すなわち耳道内の汚れを除去するには耳道内洗浄を行うことが最良です。鼓膜の有無を確認した上で、状況に合わせて様々な薬液を用いてカテーテル等で洗浄するのが最も効果的です。

Q:じゃあ綿棒を使うのは間違いということ?

耳道内の汚れを除去する所謂耳掃除目的なら完全に間違いです。外耳炎を作るだけもしくは長引かせたり悪化させるだけです。耳介内側の入り組んだところの汚れを取るときくらいでしか出番はありません。綿棒で押し込んだ結果耳垢が詰まってしまいます。診察でも耳道の腫れ具合や汚れの多少を簡便にチェックする目的でしか使用しません。動画はその詰まりを取っているところ。耳掃除を綿棒でしてもらっていたが耳の痒みが取れないという子でした。栓を取ったら再発無く痒みも消失しました。

Q:じゃあ家ではどうすれば?

基本はしなくて大丈夫。サロンでも同じ。良かれと思ってしていることが原因なんてことは良く見受けられます。定期的に耳をみて臭い、赤み、汚れがなければOKです。あるならそれは外耳炎ですので病院を受診しましょう。そこで今後のメンテナンス方法をその子に合わせたテーラーメードで見つけましょう。耳垢が出やすい子や耳の形状から耳垢の排出が上手くいかない子の場合は耳道内に入れても大丈夫な洗浄液等を入れて軽く揉むくらいで良いと思います。首を振れば中に入った液は汚れと共に外に出てきますのでそれを軽くコットンなどで拭ってあげてください。

Q:頻度は?

一概には言えません。週に1回くらい耳をお家で見て確認すれば良いと思います。拭くのも汚れていればその都度で大丈夫です。基本的にはノーメンテナンスで大丈夫ですが、定期的にしないといけない場合は何か原因や疾患が潜んでいるかもしれません。

Q:うちの子は外耳炎を繰り返す度に点耳薬を入れます。すると治るのだけど?

点耳薬はあくまでも火事が起きているところに消火剤を撒くことと同じです。火種があるかぎりはそれを取り除かないとまた火事は起こってしまいます。アレルギーや異物、寄生虫、押し込まれた耳垢が火種になります。

Q:外耳炎で鼓膜が損傷している、無いかもと言われたけどもう音は聞こえないの?

鼓膜は適切な耳炎治療を行うことで再生すると言われています。ここで大切なのは「適切な」という事がキーワードだということです。とりあえず点耳薬、飲み薬の時代では最早ありません。鼓膜が無くても聴神経が正常であれば骨伝導を介してある程度音は聞こえます。聞こえないというよりは遠くなるという方がイメージとして適切かもしれません。

Q:耳の中にダニがいると言われたけど、どこにいるの?

耳の中に寄生するダニはミミヒゼンダニと言って吸血をしないタイプのダニです。来家まもない子犬・子猫さんで比較的良く見かけます。耳道の表面に生息し、大量の耳垢と痒みを特徴としています。また、サイズはとても小さく肉眼では辛うじて白い粉?粒?が動く程度にしか分かりません。耳垢を取って顕微鏡で見るか、耳鏡で確認する必要があります。いる場合は痒みの制御と駆虫薬の投与が有効です。動画はダニが這っている様子。これだけでも痒そうと分かりますね。。。

Q:VOSって?

ビデオオトスコープシステムの略。耳に入れる内視鏡と思ってください。

Q:VOSって何が出来るの?麻酔とか必要なの?

VOSでは精細に耳道内を確認できます。炎症や耳道表面の状態、鼓膜の有無、異物やポリープのチェックなど。手持ちの耳鏡よりも遥かに効率よく行えます。また、異物の回収やポリープの引き抜き、鼓膜切開や鼓膜付近の毛の処理、耳道内洗浄など物理的な作業が出来ます。処置には麻酔が必要になることが多いですが、耳道内の確認程度ならよほど嫌がらなければ無麻酔で診察の中で行えます。難治性外耳炎の治療において欠かすことの出来ない機器です。

他にも色々と耳という分野は奥が深いです。人間では耳鼻科という一つの科が内科と同じ様にあるわけです。全ての分野においてヒト医療と同じレベルに持っていくことは不可能ですが、それに負けないように、食らいついてくぞ、活用できるものは何かないか?という気概は忘れてはいけません。綿棒を使ってのお掃除は自分が現場に出た頃は普通に良かれと思ってやっていた事です。道具や知識の発展があった結果、旧来の方法が見直されたりより有効な治療法や選択肢が出来上がっていきます。普段の診療で話したりお答えするような他愛も無い話ですが、僅かな時間でも大きく変わりました。日進月歩という言葉がありますが、それは動物医療も同じです。