胆泥に対してどこまで手をだすか?

2018年10月11日

胆泥:胆嚢内に貯留している胆汁が砂状やゼリー状に泥のように変化している状態です。これがより顕著にカルシウム沈着など起きて結石化すれば胆石です。

最近ではエコー検査によって多く発見されるようになりました。胆泥の発生メカニズムや要因については原因不明であることも多いですが、食事や体質、基礎疾患の有無によって影響を受けていると推測されています。その他にも胆泥についての多くの情報が出てきています。

現在言われているのは胆泥が溜まっているだけであればその胆泥に対しての治療は不要であるということ。要するに「胆泥がありますね=胆泥が減るようなお薬や治療をしましょう」ではないということです。しかし、そんな胆泥でも治療を考慮しないとならないケースがあります。

  1. 胆管炎などによって胆汁うっ滞が起こり、胆泥がよりそれを悪化させるような場合
  2. 既に胆嚢の拡張性や胆汁の流動性が損なわれている場合
  3. 結石化している場合

また、胆泥があるということは背景にその他疾患が潜んでいるかもしれませんので、それらの探索、認められる場合はその疾患の治療は必要です。要は胆泥があるということはなにかの病気のサインかもしれませんということです。実際に基礎疾患を治療することで胆泥の減少はよく経験します。

では、胆泥があると何が問題になるのでしょうか?

  • 胆汁は本来さらっとした緑色の液体であり、肝臓で生成された後、胆嚢に貯められます。そして食事の刺激などによって胆嚢が収縮し総胆管という管を通って十二指腸に流れます。そこで脂肪の分解を助ける働きをします。また、老廃物の排出にも寄与しています。その後腸で吸収され、門脈という血管を通って肝臓に戻ります。このように腸肝循環という回路でぐるぐると回っています。
  • その胆汁がドロドロになってしまうとうっ滞が起こります。うっ滞が起こると胆嚢の拡張性が低下し肝臓を常に圧迫するようになります。すると肝臓の組織は萎縮をし胆嚢周囲の肝臓が消失することがあります。また、うっ滞が起こることで様々な毒素が肝臓や十二指腸に悪影響を及ぼします。感染や炎症が起きていれば尚更です。
  • うっ滞で済めばいいですが、胆嚢粘液嚢腫を併発していたり胆石による総胆管の完全閉塞が起これば最悪胆嚢破裂にまで行くことがあります。その場合手術はとても緊急性が高くそして危険なものになります。開腹したものの手の施しようが無いなんてことも有り得ます。

ただ、難しいのが胆泥の中には無症状なものや臨床的に悪影響を起こさないケースがあります。すなわち胆泥すべてのケースが悪いとは限らないということです。また、肝胆道系疾患の特徴として顕著な臨床症状が重篤にならないと現れないことも難しいです。なんとなくお腹の調子が優れない、食欲にムラが。。。程度で収束してしまうことも少なくありません。しかし、それでも病状は確実に進行しています。なんとなく様子を見ていたけれどもいよいよ駄目かなと思って病院にいったら大変な状況に〜ということが普通に起こり得るのです。

また、外科・内科の観点からも治療方針が分かれる部分もあります。

手術する側からすると既にひどい状況になっている状態で手術することは術後の予後に影響し、また大変手術もしにくくなりますので、手術のしやすい軽症なうちにしたい。その方が慢性肝炎への移行リスクも少ない。といったメリットが多く、胆嚢摘出のデメリットもそこまで大きいものでは無いことから早め早めの手術を勧めます。また、術後は一時的に悪化することが多く、悪い状態で手術をすればその分危険です。そのためにも余力のあるうちにやりたいところです。

一方内科側からすると症状も強く出ていないか無症候な状態で手術をするのは強引ではないか?切らずにいけるんじゃないの?とうスタンスを取ることが多い印象です。臨床症状が多く認められるようなら手術しましょうという事になります。ただ、これは場合によっては不可逆的な肝炎など残したりすることもあり、外科医からするともう少し早くやりたいというところでしょうか。

当院でも判断は常に悩んでいます。明らかに不都合が胆泥に起因している場合であれば全身状態と相談の上手術を推奨しています。一方完全な無症状であれば基本は経過観察とし、消化器症状を繰り返す場合や血液検査で異常が出る場合は手術を後回しにするリスクを理解していただいた上でまずは内科治療。改善ない場合は手術を推奨しています。ただ、これは自分の中でのイメージですので、飼い主様のご意見や動物の状態によって判断はファジーに変えています。

ただ、やはりこのスタンスですと手術が後手に回ることが多く開腹時や術後に若干後悔を感じるときがあります。今回も夏頃からの食欲低下の子がいよいよ食べなくなったとのことで検査をすると胆泥&胆嚢粘液嚢腫になっており、胆嚢炎を併発したことが原因でした。まずは内科治療で数日チャレンジしたものの一般状態は明らかに落ち、重度の黄疸まで呈すようになってしまいました。流石にやむを得ず緊急で開腹手術になりましたが、既に肝臓は萎縮、胆嚢はもろくなり、総胆管にはびっしりと胆泥が閉塞、おそらく胆嚢破裂を小規模ながらもしていたようで腹腔内の脂肪は癒着だらけ。。。胆嚢摘出と総胆管の洗浄、十二指腸を切開し逆行性の洗浄も行い、とてもヘビーなものとなりました。術後も黄疸は一時的良化したと思ったら悪化し、再手術の可能性も考慮しないといけないくらいになりました。徹底的な治療で黄疸はだいぶ改善しましたが、だいぶ手こずっています。一方、早期に手術した子は一時的な肝数値の上昇はあったものの一般状態は良好で速やかに肝数値も正常化しました。やはりこういう経験をすると早めにすべきなんだな〜と思ってしまいます。

しかし、だからといって胆泥がある時点や無症状の状態で積極的に手術は推奨しにくいですし、同意が得られにくいのが事実です。このあたりをどのような選択をしていくか、治療を介入していくかはケースバイケースです。しっかりとメリット・デメリットを理解していただいた上で治療プランを立てていくことが胆泥においては特に重要だと考えます。