狂犬病予防接種の猶予証明について

2018年03月06日

この時期、狂犬病予防接種についての問い合わせ、特に猶予証明についての問い合わせがあります。

猶予証明についての実情や私感をご説明させて頂こうと思います。

まず、猶予証明というものは狂犬病予防法に於いては存在しません。狂犬病予防法には除外規定は無く、全頭接種が原則ということになります。狂犬病予防法は人間を守るための法律であり、そのために飼育犬は必ずもれなく自治体への登録と狂犬病予防接種を行いなさいというものです。要は「犬が死んでも人間を守るために打て」です。

一方、我々は獣医師法という法律の縛りも受けています。その中には動物の健康を害する様な事はしてはいけないというニュアンスの文言が書いてあります。ワンちゃんの中には免疫の病気の治療中であったり過去に狂犬病予防接種において強い副反応を起こした事がある子達も存在します。その場合、狂犬病予防接種を行うことが動物達の健康を逆に害する恐れがあります。すなわち我々はジレンマに陥っている訳です。

かたや死んでもいいから注射を打て、かたやリスクがある個体には打つな、何かあったら獣医の責任だ。。。これは本当に由々しき事態です。そんなジレンマの中落とし所として存在しているのが猶予証明です。

今まで私自身、「この子に注射を打ったら健康を害すかもしれない、命に関わるかもしれない。この子は狂犬病じゃないんだし今年の接種は見送ることを許可します。」という事を獣医師側の判断で出来るものと認識していました。だから猶予証明を出すことにあまり抵抗も無く、求められれば出していました。しかし、先日の狂犬病シンポジウムに於いてこれはとても危ない事であると警鐘を鳴らしていました。そもそも狂犬病予防法には除外規定がないから猶予証明というものは有り得ない。獣医師の判断でしなくて良いという許可を出す権限も存在しない。もし仮にその子が狂犬病に感染したりしたらそれに伴う社会への影響や責任というものを猶予証明を出した獣医師が負わなくてはいけなくなる。。。だから安易に猶予証明を出すのは望ましくないとの事でした。

なるほどなと思うと共に自分の認識の甘さを反省しました。確かにそんなリスク、背負える訳ありません。

狂犬病予防法の管轄は厚労省であり、自治体がその実務を負っています。役所側からすると獣医師直々に猶予証明というものを持ってこられると無下にすることは出来ず、許容するそうです。むしろそれどころか積極的に受けている部分もあるとのことでした。それはなぜか?「接種をしなくても良いですよ」と証明書を書いた獣医師が言った訳ですから、打たない事で何か問題が起きても責任は我々(役所)じゃなく、その獣医だよね?というロジックです。要は打たなかった事による問題が起きた時の責任は猶予証明を出した獣医師が負うんだ。という事です。

全くその通りです。証明の中には「この犬は◯◯のため、狂犬病で無いことと併せ狂犬病予防接種の猶予を認める」と自分の名のもとに言っている訳ですから。。。

シンポジウムで落とし所としていたのは、止むを得ず猶予証明を出す場合は「打たない事を認める」という様な文言は入れずにあくまでも打たないほうが望ましいなど、あくまでも決定は飼い主さん、ないしは管轄の役所が判断するものというような体にすることが望ましいという様な事でした。あくまでも獣医師は狂犬病予防接種を役所の代わりに行っているだけに過ぎないという事です。今後、自分が出す猶予証明については文言や内容、状況は十二分に再考しなくてはと思いました。

少なくとも高齢だから接種しない、何となく危ないから接種しない等の曖昧な理由では猶予証明を出すことはなるべく控えるようにとの事でしたのでそれに則る事にすると共に、出すとしても狂犬病予防接種時と同等の費用としていこうと思います。(狂犬病予防接種費を惜しんで猶予証明で逃げようとするケースを懸念&猶予証明の重さ・意味を鑑みて、です)当然、その子の状態や様子によって併せて判断していきますが、猶予証明を出すということへの自分の中でのハードルは上げようと思います。

シンポジウムの中で繰り返し話に出ていましたが、そもそも狂犬病予防法が今の時代に合っていない部分があるからこその問題であるということでした。森友問題や働き方改革等も大切ですが、狂犬病が日本に入ってきたらそれどころでは無いでしょう。最近、多くのペット関連のテレビ番組や雑誌を見るようになりました。狂犬病の事も是非知ってもらってこのようなジレンマが少しでも無くなればいいな〜と思います。そのような法律改正がされることを切に望みます。

狂犬病の予防接種、忘れずに必ず行って下さい。この病気は本当に悲しく危険な病気です。感染してしまった4歳の少年の感染後の変化等を記録した動画がシンポジウムの中で流れました。本当に悲惨です。元気だった子がほんの数日で為す術無く苦しみながら命を落とす様子はとても辛いです。発症したら100%の致死率です。日本はこの病気を清浄化出来た数少ない国です。清浄化したからやらなくて良い、大丈夫ではなく、これを維持していくためにも二度と日本に入れない為にも高い接種率を実現させないといけません。

我々には接種を強制する権限はありませんし、猶予証明についても同様です。最終的には飼い主さんの判断にかかっています。皆様のご理解とご協力を何卒お願い致します。