綿棒を使って耳掃除は良くないの??

2017年09月17日

お手入れの一環として、耳掃除の仕方を聞かれることがあります。

今回は正しい耳のケア、外耳処置について書いてみようと思います。

まずはご家庭での耳のケア。。。結論から言うと基本的にはお手入れは要りません!ただ、これは外耳炎に罹患していない・脂漏症などの角化亢進状態になっていないなどの炎症が無い・過度の耳垢が形成されていないといった状況であることが前提です。せいぜい週に1回くらい洗浄液等で湿らせたガーゼやコットンなどで耳道入り口周囲や耳介内側を軽く拭う程度で十分です。綿棒を使うことは人間と同様に勧められません。耳道の上皮は元々内部で発生した耳垢を外へ排出出来るようにターンオーバーを繰り返しています。そこで綿棒を使ってしまうと出て来ようとしている耳垢を奥に奥にと押しやってしまうことになります。また、綿棒の通る物理刺激で耳道上皮の損傷が起こり炎症を惹起することもあります。

要は放っておいても汚れは外に勝手に出てくる。外側に付いている汚れがあればそれを拭いてあげるだけでOKということです。実際のケース①:キャバリアちゃんで再発性の外耳炎とのこと。症状が出る度に近医にて点耳薬や内服の処方を受けて治療して治るが今回は治りが悪いとのこと。難治となる場合、耳道内異物や耐性菌、基礎疾患の出現等を考慮しますが、否定済み。詳しく問診を取ってみると悪くなってから毎日の様に綿棒で掃除を念入りにしていた模様。最初の外耳炎のトリガーは犬種・季節等色々あると思いますが、こじれた要因は日々の良かれと思ったデイリーケアに起因するものが疑われました。治療方針としてはお家での綿棒等の清掃処置を中止、点耳処置のみとしました。出てくる耳垢へは病院での定期的な洗浄(これは後で説明しますね)で対応することとしました。中耳炎の併発も疑われる状態でしたが、2週間程で完治。その後は綿棒等の使用は控えてもらい、拭くことをメンテナンスとしました。元々アレルギー性皮膚炎の素因がありそうな子でしたので、繰り返す外耳炎へは在宅での初期対応としてローションタイプの点耳薬で痒みや発赤の出現時に点耳してもらうことで対応しましたが、ほとんど点耳もせずに管理できています。

ケース②:ヨーキーちゃん。半年くらい前から外耳炎が治らない。病院で定期的に綿棒で耳掃除をしてもらい、点耳薬をもらうことで少し良くなるが結局また直ぐに酷くなるとのこと。今回は特に酷く、先生からは中耳炎が起きてるのでは?と言われているとのこと。外耳炎を罹患している場合の約3割は中耳炎を併発しているとされています。大概は外耳炎が中耳にまで波及することが殆どです。鼓膜を損傷し、難治となる原因の1つになります。今回、酷くなっているのは点耳薬の使いすぎと不適切な外耳処置でした。耳の入り口は汚れがありませんが、皮膚は菲薄化し一部びらんを起こしています。また、耳道内はびっしりと汚れが貯留し、耳漏もたっぷりと。。。おそらくは点耳薬の盲目的な使用でステロイド皮膚症を発症し、耳道内は綿棒で汚れの排出を遮ってしまい、耳垢塞栓を起こしている状態。これではせっかくの点耳薬も効きません。この様な場合、必要な事はカテーテル等を用いて洗浄をすることです。生理食塩水等を耳道内に入れてそれを回収する。これを繰り返して回収される液がキレイになるまで繰り返す。。。この方法のメリットは鼓膜の穿孔の有無を推測出来ることです。入れた液が回収されないor飲み込む仕草をする場合は鼓膜穿孔をしている可能性が高く、中耳炎以降のトラブルを疑うことができます。今回はしっかりと洗浄液が回収されるため、中耳炎への波及の疑いは低く、カテーテルでの耳道内洗浄と点耳薬の変更(内部の炎症ケアのためクリームタイプからソリューションタイプへ変更し深部への効きを意識)で対応することにしました。この子は劇的に改善し1週間後には完治。耳介部のステロイド皮膚症も明らかに改善し、このまま略治しそう。この子は綿棒を使っての外耳処置が悪かった事が大きなウェイトを占めていました。半年間かなりのエネルギーを費やしていたのがすっきりと治り本人的にも良かったと思います。

挙げればキリがありませんが、綿棒を使うことや過度な耳掃除は多くのトラブルを引き起こします。しかし、綿棒を使うことは自分もよくあります。耳道狭窄の程度確認や耳垢検査を行う際のサンプリング、耳介部のヒダが入り組んだところの清掃に用います。しかし、耳道内処置としては用いません。

最近の耳科セミナーでもこの話はクローズアップされており、サロン等で綿棒を用いた耳掃除で悪化、外耳炎を惹起される事が多い。耳掃除をしないとならないくらい耳垢が貯まるならそれはサロンでやることでは無く、正しい知識を持った獣医師に処置してもらうべき案件であるということを強調していました。サロンでの歯磨きサービスとかと似た話だな〜。。。と思いますが、確かに獣医師でないと分からない、責任を持てないことは多々あると思います。ここまでは正常でここからが異常という線引は難しいですが、その知識の啓蒙や共有を皮膚科専門医や学会認定医が積極的に行うべきことだと思います。

近日中に耳科用内視鏡を導入予定です。より深く耳の疾患へのアプローチが可能になります。外耳炎。。。とても多い疾患の一つですが、中々奥が深い病気です。